稲荷神、お狐さま、妖狐、化け狐
稲荷神(稲荷大明神)は、日本で最も信仰されてきた農耕神・食物神です。
主祭神は「宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)」で、稲や穀物をつかさどる神として古代から信仰されています。
稲荷神社では狐は 「稲荷神の眷属(神の使い)」 とされ、五穀豊穣・商売繁盛・家内安全・技芸上達など、多くのご利益があるとされています。
※「稲荷=油揚げ」というイメージは後世の庶民信仰によるもので、神道の本義とは異なります。
ここでは、稲荷神、お狐さま、妖狐、化け狐の種類を紹介していこうと思います。
狐の神様
稲荷神
稲荷神(いなりのかみ/いなりしん)は、稲や穀物をつかさどる穀霊神・農耕神です。 稲荷大神(いなりおおかみ)・稲荷大明神(いなりだいみょうじん)、お稲荷さま、お稲荷さんとも呼ばれます。多くの稲荷神社では、主祭神として 『宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)』 が祀られており、食物・穀物の生命力そのものを神格化した存在とされています。「稲荷」という名前の由来には諸説あり、「稲が成る(いねなり)」や「稲を荷なう」など、稲作と結びつける説がよく知られています。 一般に境内に並ぶ狐像は、稲荷神そのものではなく、その眷属(神の使い)です。狐は五穀豊穣・商売繁盛・家内安全などをもたらす神の使いとして信仰されてきました。
天狐(てんこ)
天狐は、長い歳月を生きて神通力を得た、最上位の狐とされる存在です。 江戸時代末期の随筆『善庵随筆』に引かれる皆川淇園の説によると、 狐の位階は上から – 天狐 – 空狐 – 気狐 – 野狐 の順であるとされ、そのうち天狐は神に等しい存在と書かれています。 天狐は千年以上生きた狐とされることが多く、強い神通力や千里眼を持ち、人間の目には直接見えない霊的存在と説明される場合もあります。
空狐(くうこ)
空狐は、天狐に次ぐ高位の狐として、江戸時代以降の文献に見える存在です。皆川淇園の説では、天狐・空狐・気狐・野狐という階級のうち、天狐のすぐ下に位置する狐とされ、強大な神通力を持つ霊的な狐とされています。 具体的な姿かたちについては資料によって解釈が分かれますが、多くの場合、 「普通の狐と区別のつかない姿をとりつつ、霊的な存在で人の目に触れにくい」 といった説明がなされています。
気狐(きこ)
気狐は、野狐よりも位が進んだ中位の狐として語られる存在です。 皆川淇園の説では、 「野狐より上位で、天狐・空狐ほどではないが、霊的な力を持つ狐」 とされ、野狐と天狐の中間的な性格を持つと説明されています。 後世のスピリチュアル的な解釈では「人の気(エネルギー)に働きかける狐」として語られることもありますが、これは近年の解釈であり、本来は皆川淇園の狐の階級論に出てくる名称だと考えておくとよいでしょう。
仙狐(せんこ)
仙狐(せんこ)は、もともと中国の伝承における「狐仙(こせん)」を由来とする概念です。狐が長い修行や歳月を経て仙術を身につけ、神通力を得た存在とされています。 日本では、これにならって – 長寿で霊力を持つ善狐 – 人を助けたり、導いたりする高位の狐 といったイメージで「仙狐」と呼ぶケースがあり、「千年以上生きた善狐」=仙狐とする解説も見られます。ただし、この年数設定は近代以降の解釈で、地域や文献によって異なります。
辰狐(しんこ)
辰狐は、主に仏教系の稲荷信仰と結びついて語られる狐の名称です。 例えば、寺院の稲荷神として祀られた狐像の多くが、この「辰狐」の名を持つとされます。 また、「荼枳尼天(だきにてん)」の眷属として、稲荷神社とは別系統の狐信仰において語られることもあります。 (出典:寺社信仰資料による/地域資料によって名称・役割が異なるため、ご紹介の際は「伝承によれば」と注記するのが適切です。)
野干(やかん)
野干は、中国から伝わった妖獣・「野干(やかん)」の語を借りて、稲荷信仰あるいは狐信仰と結びつけられた狐の一種として日本各地に登場する名称です。 稲荷神の眷属や、寺院に仕える狐として語られることがあります。 ただし、野干という名称が狐に完全に重ねられているわけではなく、地域によって動物観・語源が異なります。 そのため、「伝承では“野干と呼ばれる狐の一族”とされる」と注記するのが安全です。
白蔵主(はくぞうす)
白蔵主は、白狐として神格化された狐の名です。 例えば大分県佐伯市の海福寺や大阪府能勢町の七寶寺では「白蔵主大善神」として祭られており、狐像・社号などが残ります。 この名称は、善狐・神使としての狐信仰が色濃く残る例と言えます。 (出典:各寺院の由緒記録・地域調査による)
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