第三十八首 右 近 【拾遺集】
忘らるる 身をば思はず ちかひてし 人の命の をしくもあるかな
『あなたに忘れ去られてしまった我が身の事よりも わたしを愛してくださると神様に誓ったあなたが神罰を受けはしないかと心配です』
【忘らるる】忘れ去られる
【をしくもあるかな】心配
第三十九首 参議等(源 等) 【後撰集】
あさぢふの 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき
『茅草が寂しく忍ぶ小野の篠原のように、あなたへの恋しい想いを忍ばせておくことができません』
【ああぢふ】低い茅がまばらに生えている
【小野】は野原や草原のこと
【篠原】細くて背の低い竹が生い茂っているところ
【あまりてなどか】なぜか
『人に知られまいとあなたへの恋心を我慢していても、顔に出てしまい、何か物思いをしているのではと、人に問われてしまうほどです』
【色】表情
【物や思ふと】心配事、悩み事
第四十一首 壬生忠見 【拾遺集】
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
『わたしが恋をしているという噂が広まってしまったようだ。誰にも知られずに
あなたの事を心の奥で密かに思いはじめたばかりなのに』
第四十二首 清原元輔 【後拾遺集】
契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 浪こさじとは
『袖をしぼれるほど涙で濡らしながら、二人で約束をしましたね。末の松山を波が決して越す事がないように、わたしたちの心も決して変わることはないと』
【契り】契約
【かたみに】互いに
【袖をしぼり 】涙を流す
第四十三首 權中納言敦忠 【拾遺集】
あひ見ての 後の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり
『あなたと逢ってから、お逢いする事すらできなくなってしまった今の辛い思いに比べれば、逢いたいと思っていた昔の恋心の苦しみは物思いなどしなかったも同じようなものです』
第四十四首 中納言朝忠(藤原朝忠) 【拾遺集】
逢ふ事の 絶えてしなくは 中々に 人をも身をも 恨みざらまし
『一度もあなたにお逢いする事もなかったなら、むしろその方があなたの事も、わたしの事も、恨んだりしなかったでしょう』
【絶えて】絶対に
【中々】むしろ
【ざらまし】~でなかったろう
第四十五首 謙徳公(藤原伊伊) 【拾遺集】
あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
『見捨てられたわたしを哀れだと同情してくれる人がいるようには思えません。わたしのこの想いは空しく過ぎていくのでしょう。』
【思ほえで】思いがけなく
【いたづら】空しく
第四十六首 曾禰好忠 【新古今集】
由良のとを 渡る舟人 かぢをたえ 行くへも知らぬ 恋のみちかな
『由良の海峡を渡る舟の船乗りが梶をなくしてしまい、どこに流れ着くのかも分からず、ただ漂っているしかないように、わたしの恋の行方もこの先どうなるのだろう』
第四十八首 源 重之 【詞花集】
風をいたみ 岩うつ浪の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな
『風が激しく吹いて、波が岩に打ち砕け散るように、わたしのあなたへの想いは砕け散り、思いが乱れる今日この頃です』
【いたみ】激しく
第四十九首 大中臣能宣朝 【詞花集】
みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえ 昼は消えつつ 物をこそ思へ
『御垣守りの衛士が焚く火のように、夜には激しく燃え、昼間には
この身が消えてしまいそうになりながら、あなたの事を想っています』
【みかきもり】皇居を警備する役人
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