2. 恋心や愛情を表す古語 ― 平安の恋文に宿る言葉の力
古語の中でも、恋や愛情にまつわる表現は特に豊かです。「しのぶ(忍ぶ)」「なつかし」「いとほし」などは、恋の切なさや喜び、想いの深さを繊細に表現します。特に『源氏物語』のような恋愛文学では、恋する人の心のゆらぎや、報われぬ思い、過ぎ去った恋への郷愁が、こうした言葉によって詠まれています。現代語では一語では言い表せないような複雑な恋心を、古語は見事に描き出してくれます。恋愛感情を表す古語を知ることで、古典の恋物語に込められた本当の心情が見えてくるでしょう。
1. しのぶ(忍ぶ)
人目を忍んで恋い慕う。表に出せない恋心。
2. なつかし
親しみがあって心惹かれる。愛情を含んだ好意。
3. いとほし
気の毒でかわいそうだが、同時にいとおしい。
4. つれなし
そっけない・冷たい態度。恋の相手の無関心に心痛む様子。
5. あいなし
理不尽だ・つまらない。恋の不満や虚しさを込める。
6. かなし
愛おしい・悲しい。恋情と哀しみが交錯する語。
7. こころぐるし
心が痛むほどに愛しい・心配になる感情。
8. もの思ふ
恋や人生の悩みを思い詰める心の状態。
9. うしろめたし
気がかりだ・後ろ暗い。報われぬ恋の悩みにも。
10. こころうし
気が重い・つらい。恋愛における苦しさを表現。
11. こころもとなし
不安で落ち着かない。恋人の心が分からぬときなどに使う。
12. あくがる
心が体から離れてさまよう。恋い焦がれる様子。
13. こひし(恋し)
恋しく思う。離れている相手を強く慕う感情。
14. つま
配偶者・恋人。最も身近で大切な存在。
15. あらまほし
理想的な恋人像など、こうあってほしい願望を含む語。
16. あやなし
筋が通らない・不合理。叶わぬ恋に対する嘆きに使われる。
17. しるし
恋が通じたしるし、心の動きが見えるような状態。
18. いぶせし
なんとなく気がかり。恋におけるもどかしさを含む。
19. うらやまし
羨ましい。人の恋がうまくいっていることへの嫉妬。
20. なやまし
恋煩いや心の葛藤で具合が悪くなる様子。
21. ただならず
様子がおかしい・心乱れる。恋に落ちた人の動揺。
22. みめよし
容姿がよい。恋愛対象として魅力的であるという美的表現。
23. こころばへ
性格・心配り・気立て。恋人としての魅力の一部とされる。
24. まめやか
誠実・真面目。真剣な恋愛関係にふさわしい性格。
25. いみじく思ふ
とても大切に思う。恋の深まりを示す語。
26. いまいまし
恋敵や邪魔が入ったときの怒りや嫌悪。
27. うし
つらい・いやだ。恋愛における苦しみの一端。
28. さうざうし
物足りない・寂しい。恋人がいないことの寂寥感。
29. しのばるる
恋心が表に出ず、じっとこらえている状態。
30. ながむ(眺む)
物思いにふける・遠くを見る。恋の余韻を込めて使う。
31. みる(見る)
男女関係を持つことを含む、恋愛における行為の婉曲表現。
32. あふ(逢ふ)
恋人と会う・結ばれること。運命的な出会いの象徴でもある。
33. あながち
強引な・ひたむきな愛。相手を思う気持ちが強すぎる様子。
34. つらし
つれない・冷たい。相手の態度が恋を苦しめる。
35. あたらし
もったいない・惜しい。恋が終わってしまったときの未練。
36. おほけなし
身の程知らずな恋心。高嶺の花への片思いなど。
37. やさし
恥ずかしい・いじらしい・優美で奥ゆかしい恋情。
38. なめし
無礼である。恋人への態度が失礼だったときに用いられる。
39. こころなし
思いやりがない。恋人への不満や心の距離感に使う。
40. あいぎやう(愛敬)
魅力・愛らしさ。恋を引き寄せる人柄や見た目の良さ。
41. おほとのごもる
男女関係を持つことの婉曲表現。恋人同士の夜を指すことも。
42. こちたし
うるさい・煩わしい。周囲に邪魔される恋に対して。
43. たのむ
あてにする。恋人への信頼や期待の気持ちを含む。
44. よばふ
求婚する・しつこく言い寄る。恋の積極的な態度。
45. よしあり
由緒がある・趣がある。恋人として「よきもの」として見られる状態。
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