- さを鹿の心相思ふ秋萩のしぐれの降るに散らくし惜しも
 (鹿が相手を想うように、秋萩が時雨に散るのが惜しまれてならない)
- 白露に争ひかねて咲ける萩散らば惜しけむ雨な降りそね
 (白露に抗して咲いた萩が、もし散ってしまうなら、それは惜しい。雨よ、降らないで)
- 九月のしぐれの雨に濡れ通り春日の山は色づきにけり
 (九月の時雨に濡れて、春日の山はすっかり色づいてしまった)
- しぐれの雨間なくし降れば真木の葉も争ひかねて色づきにけり
 (時雨が途切れず降り続けるので、真木の葉も競うように色づいた)
- 思はぬにしぐれの雨は降りたれど天雲晴れて月夜さやけし
 (思いがけず時雨が降ったが、雲が晴れて澄んだ月夜になった)
- 一日には千重しくしくに我が恋ふる妹があたりにしぐれ降れ見む
 (一日に何度もしとしとと降るように、恋しい人のあたりにしぐれが降っていれば見に行こう)
- 黄葉を散らすしぐれの降るなへに夜さへぞ寒きひとりし寝れば
 (黄葉を散らす時雨が降るうえに、夜も寒く、ひとり寝の寂しさが募る)
- 秋萩を散らす長雨の降るころはひとり起き居て恋ふる夜ぞ多き
 (秋萩を散らす長雨の季節には、独り起きて恋い慕う夜が多くなる)
- 笠なしと人には言ひて雨障み留まりし君が姿し思ほゆ
 (笠がないと人に言い訳して、雨を理由に逗留したあの人の姿が思い出される)
- 妹が門行き過ぎかねつひさかたの雨も降らぬかそをよしにせむ
 (妹の門前を通り過ぎられず、久方の雨よ降ってくれ、それを口実にしよう)
- 楽浪の波越すあざに降る小雨間も置きて我が思はなくに
 (楽浪の波を越えて降る小雨よ、絶え間なく降るように、私の想いも止まらない)
- 雨も降り夜も更けにけり今さらに君去なめやも紐解き設けな
 (雨も降り夜も更けた。今さらあなたが帰るはずもない、紐を解いて支度を整えましょう)
- ひさかたの雨の降る日を我が門に蓑笠着ずて来る人や誰れ
 (久方の雨が降る日、蓑笠も着けずに私の門を訪ねてきたのは誰だろう)
- ひさかたの雨も降らぬか蓮葉に溜まれる水の玉に似たる見む
 (久方の雨よ、どうか降っておくれ。蓮の葉に溜まった水玉のような美しいものを見てみたい)
- ひさかたの雨は降りしくなでしこがいや初花に恋しき我が背
 (久方の雨が降り続く中、なでしこの咲き始めの花が、恋しいあの人に思えてならない)
- 苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに
 (なんとつらく降ってくる雨だろうか。三輪の崎から狭野の渡し場には、雨宿りできる家もないというのに。)
- 春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも
 (春の雨はしとしとと降っているが、我が家の梅の花はまだ咲いていない。とても若い木だからだろうか。)
- 春雨を待つとにしあらし我がやどの若木の梅もいまだふふめり
 (春雨を待っているうちに、我が家の若い梅の木もまだつぼみのままである。)
- ひさかたの雨の降る日をただ独り山辺に居ればいぶせかりけり
 (空のかなたから雨が降る日、ひとり山のほとりにいると、何とも気が晴れずもの憂く感じられる。)
- 春雨のしくしく降るに高円の山の桜はいかにかあるらむ
 (しとしとと春雨が降る中、高円の山の桜は今どうしているだろうか。)
- 時待ちて降れるしぐれの雨やみぬ明けむ朝か山のもみたむ
 (時を待って降っていた時雨がようやく止んだ。明ける朝には、山の紅葉を見に行こうか。)
- 時雨の雨間なくし降れば御笠山木末あまねく色づきにけり
 (時雨が絶え間なく降るので、御笠山の木々の梢がすっかり色づいてしまった。)
- 大君の御笠の山の黄葉は今日の時雨に散りか過ぎなむ
 (大君の御笠山の紅葉は、今日の時雨で散ってしまうのだろうか。)
- 明日香川行き廻る岡の秋萩は今日降る雨に散りか過ぎなむ
 (明日香川のほとりを巡る岡に咲く秋萩は、今日降る雨で散ってしまうのだろうか。)
- 秋の雨に濡れつつ居ればいやしけど我妹が宿し思ほゆるかも
 (秋の雨に濡れながらじっと座っていると、物寂しいけれど、愛しいあの人の家のことが思い出されてならない。)
 
和歌に見る“雨”の多様な意味を、現代に伝える
雨は、恋しさや孤独、自然への感謝と恐れ、人生の儚さまでも象徴してきたのです。
万葉集の和歌から見えてくるのは、1300年以上の時を超えてなお人の心に響く“普遍の感情”。
この情緒を、教育や自己探求、文化学習に役立ててみませんか?
雨の和歌は、古典の知識を深めるだけでなく、心の琴線にふれる“学びの習慣”にもなり得るのです。
❓よくある質問(FAQ)
- Q. 万葉集には雨の和歌がどれくらいありますか?
- A. 万葉集には100首以上の雨に関する和歌が収録されており、恋や旅、自然への想いを雨とともに詠んでいます。
- Q. 「ひさかたの雨」とはどういう意味ですか?
- A. 「ひさかた」は“空”を指す枕詞で、「ひさかたの雨」は「空から降る雨」の意味を強調する表現です。
- Q. 万葉集の雨の和歌は教育や試験にも使えますか?
- A. はい。古典文学や国語の教材として、表現技法や情景描写の学習に役立ちます。
- Q. 雨の和歌にはどんな感情が込められていますか?
- A. 恋しさ、孤独、自然への畏敬、無常観など、多様な感情が雨とともに繊細に詠まれています。
 
  
  
  
  
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