7. 和歌や俳諧に詠まれた風流
言葉の芸術としての風流。短くも深い、和歌や俳句の中に込められた美意識を見つめます。
- 春の夜の夢のごとし(『平家物語』より)
春の夜のように、短く儚いもののたとえ。人生の無常も重なる名句。 - 心あてに折らばや折らむ初霜の おきまどはせる白菊の花
霜と菊の白が見分けられないという、自然と心情の交錯が美しい歌。 - 名にし負はば いざ言問はむ都鳥
恋の行き場を鳥に問いかける、切なくも風流な和歌。 - 閑さや岩にしみ入る蝉の声
有名な俳句。静けさの中に自然の音が溶けこむ、風流の極み。 - 春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山
季節の移り変わりを、洗濯された白い衣から感じ取る和歌。 - さびしさに宿を立ち出でてながむれば いづこも同じ秋の夕暮れ
どこを見ても秋の夕暮れ。寂しさが一面に広がる心象風景。 - 世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山のおくにも鹿ぞ鳴くなる
俗世を離れても、山奥で聞こえる鹿の声に哀しみがよみがえる。 - やすらはで寝なましものを小夜更けて かたぶくまでの月を見しかな
恋のために眠れず、月を眺め続けた夜を詠む歌。 - 散る花を惜しむ心のあるからに この世は夢と知らで過ぐらむ
花の散り際に心を動かされること自体が、夢のような人生の象徴。 - 閨(ねや)の灯をふと見やればほの暗く 蛍とぶ夜の雨のしづくに
夜の静けさ、灯、蛍、雨粒。五感で味わう風流な一瞬。
8. 衣・道具・住まいに見る風流
衣装や調度品、住まいなどにさりげなく表れる洗練された趣き。派手ではないが、美を極めた生活の風流。
- 白妙(しろたへ)の衣
漂白された白い衣。清らかさと季節感(春や夏)を象徴する言葉。 - 小袖の袖に香をしのばせて
衣の袖に香をたきしめる、さりげない美意識。 - 手箱に季節の文を忍ばせる
季節の気配を封じこめるような風流な手箱の使い方。 - 几帳(きちょう)越しの面影
室内を仕切る布(几帳)の向こうに見える人の影に情緒を感じる表現。 - 蒔絵の硯箱
漆で絵を施した文具入れ。実用品にも芸術性を求める風流心。 - 竹の花入れに一輪の野菊
高価な花ではなく、素朴な野菊を活ける美の極み。 - 杉の板敷きの香る庵
杉板の床がほんのりと香るような、自然素材を生かした住まい。 - 灯火親しむ夜
油の灯に照らされて書を読む。静かな夜の風流なひととき。 - 団扇に書かれた歌一首
団扇に和歌をしたためることで、実用品に心を込める美しさ。 - 簾(すだれ)越しの月
すだれの向こうにぼんやりと見える月に、幽玄な趣を感じる表現。
9. 年中行事と遊興の風流
花見、月見、香道、詩会など、季節を感じつつ人々が集い楽しんだ行事に宿る風流。雅やかな集まりの記録です。
- 花見の宴(えん)
桜の下で歌や舞を楽しむ春の行事。自然と人の調和を楽しむ風流。 - 月見の盃(さかずき)
月を眺めながら酒を酌み交わす、秋の風物詩。静かで雅なひととき。 - 重陽の節句に菊を浮かべる
九月九日、菊の花びらを酒に浮かべて長寿を祝う優雅な行事。 - 七夕の歌を短冊に託す
織姫と彦星の物語を想いながら、願いを和歌に込めて飾る風流。 - 灯籠流しに思いをこめて
水面に灯を浮かべて流す行事。冥想と美が調和する儀式。 - 香道の会(こうどうのえ)
香りを鑑賞し、香木の違いを楽しむ遊び。心を整える風流な時間。 - 歌合(うたあわせ)
和歌を詠み合い、優劣を競う遊戯。教養と感性が問われる風流な勝負。 - 蛍狩り
夏の夜に蛍の光を追いかけて楽しむ、幻想的で儚い行事。 - 雪見の酒
冬、雪景色を見ながらしずかに酒をたしなむ趣のあるひととき。 - 貝合わせ
貝殻の中に絵や和歌を描き、対となる貝を探す遊び。平安貴族の優雅な娯楽。
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