妖狐
狐が霊となり神となった「霊狐」の事で、300年以上生きると妖術を身につけ、妖狐になるといわれる。
善狐(ぜんこ)
善狐は、人に幸運をもたらす吉祥の狐として語られます。 稲荷神の眷属である白狐がその代表で、五穀豊穣・家内安全・商売繁盛など、良い運を運ぶ存在とされています。 「憑くと幸運を招く」とする地域伝承もあり、妖怪というよりは“守り神”や“福を呼ぶ霊獣”として扱われることが多い狐です。 稲荷信仰の広がりとともに全国で親しまれてきた存在です。
赤狐(せきこ)
赤狐は、毛並みが赤みがかった一般的な狐(ホンドギツネ)を指す名称として使われるほか、 神道系の狐を「赤毛の狐」と表現する場合にも用いられます。 伝承上、特別な能力や神通力を持つという明確な出典は少ないため、主に“狐の区別名称”として理解されます。 ただし、地方によっては赤狐を吉兆として扱う例もあり、地域差が大きいカテゴリーの狐です。
白狐(びゃっこ/はくこ)
白狐は、白い毛を持つ狐の総称で、稲荷神の眷属として最も広く信仰される狐です。 白は清浄や神聖を象徴する色であるため、「神の使い」として神格化されやすく、 多くの稲荷神社の狐像も白狐をモチーフにしています。 善狐の典型とされ、幸福・福徳・開運を司る存在として、全国で崇拝されてきました。
黒狐(くろこ/こくこ)
黒狐は、黒い毛を持つ神秘的な狐で、北斗七星の化身とする伝承が残る地域もあります。 「王者が太平をもたらした時に姿を現す」という説話もあり、 白狐と対になる“特別な瑞獣”として扱われる例が見られます。 ただし、黒狐に関する民俗資料は地域的に限定されるため、紹介する際は「地域伝承による」と補足するのが適切です。
銀狐(ぎんこ)・金狐(きんこ)
銀狐・金狐は、毛色を銀色・金色とする特別な狐を指す名称です。 いずれも稲荷信仰や妖狐伝承の中で神聖視されることが多く、太陽や月などの象徴に結びつけられる場合があります。 – 金狐:太陽・光・繁栄を象徴する霊狐 – 銀狐:月・静寂・霊性を象徴する霊狐 同じ白狐系統の“吉祥の狐”として扱われ、仏教系の荼枳尼天(だきにてん)の眷属として語られる場合もあります。 民俗資料の中では明確な階位よりも「象徴的な色の狐」として扱われることが多い存在です。
九尾の狐(きゅうびのきつね)
九尾の狐は、尾が九本ある強大な妖狐で、日本・中国・インドなど複数の神話世界に登場する、東アジアを代表する霊獣・妖怪です。 日本では「白面金毛九尾の狐」として知られ、玉藻前伝説を通じて広く定着しました。 九尾は、長命・霊力・知性の象徴で、 “尾が増えるほど妖力が高まる” という中国の狐仙思想の影響を強く受けています。 そのため、日本の妖狐伝承の中でも特別な存在として語られます。
金毛九尾狐(きんもうきゅうびこ)
金毛九尾狐は、「九尾の狐」の中でも特に神通力が強いとされる金色の毛を持つ妖狐です。 信仰の対象となる地域では、 「信仰すれば守護を与えるが、敬わなければ災厄をもたらす」 という二面性を持つ存在として伝わります。 玉藻前と同一視されることも多く、九尾の狐の中でも最も有名な名称のひとつです。
玄狐(げんこ)
玄狐は、北海道松前町に伝わる黒狐に由来する「玄狐稲荷」の名として知られます。 地域では神聖な黒狐として祀られており、黒狐信仰の希少な事例として記録されています。 黒狐(黒毛の狐)は全国的に伝承が少ないため、松前町の玄狐は地方信仰として特に貴重な例です。
野狐(やこ)
野狐は、一般に“人間にいたずらをする狐”を総称する呼び名です。 特定の個体や系統ではなく、姿を変えて人を騙したり、狐火を灯したりする“普通の狐の怪異”全般を指すことが多い語です。 民俗資料では、 – 善狐(人に福をもたらす狐) – 野狐(人に悪さをする狐) という対比で用いられることもあります。 野狐は、怪異の主体として最も頻繁に登場する、広義の“化け狐”の代表的な存在です。
八尾狐(やおのきつね)
八尾狐は、江戸時代の文献に登場する、多尾の狐の一種です。 『東照大権現祝詞』の中で、三代将軍・徳川家光の夢に「八つの尾を持つ狐」が現れ、病の平癒を告げたと記されています。 その姿を家光が絵師・狩野探幽に描かせたとされる『八尾狐図』が知られています。 九尾ほど広く普及した伝承ではありませんが、「多尾の霊狐は力が強い」という中国・日本の思想を反映した貴重な事例です。
おさん狐(おさんぎつね)
おさん狐(おさんわ狐)は、日本の民間伝承に見られる「美女に化ける狐」の呼び名です。 妻帯者や恋人のいる男の前に現れ、誘惑したり、試すような行動を取ったりするとされています。 「狐が美女に化ける」という説話は全国にありますが、「おさん狐」という名前で呼ばれるのは一部地域に限られます。 艶やかな女性像と“人間の心の弱さ”を描いた、典型的な化け狐の物語です。
篠崎狐(しのざきぎつね)
篠崎狐は、江戸時代の奇談集『梅翁随筆』に登場する化け狐です。 物語として記録されているため比較的出典が明確で、狐が人を欺いたり、奇妙な現象を引き起こしたりする「江戸怪談らしい狐譚」の一例とされています。 具体的な逸話は作品ごとに異なりますが、「篠崎」という名は狐の住処、あるいは地名に由来すると考えられています。
葛の葉(くずのは)
葛の葉は、陰陽師として有名な安倍晴明の母とされる伝説上の狐です。 人間の女性に化け、安倍保名(あべのやすな)と結ばれ、晴明を産んだのち、正体が狐と知られると「恋しくば尋ね来てみよ和泉なる 信太の森のうらみ葛の葉」という歌を残して姿を消したと伝えられます。 この伝承は室町〜江戸期に広く知られ、浄瑠璃・歌舞伎などの演目として定着しました。 日本の狐伝承の中でも特に有名で、母性・愛情・別離といった感情を象徴する物語として語り継がれています。
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