3. 哀しみ・悲しみの言葉
「哀しみ」や「悲しみ」を表す言葉は、文学的な表現の中でも特に繊細で奥深い領域です。「哀し」「悲し」「嘆く」「憂う」「悼む」など、似たように見える語でも用法や意味のニュアンスには違いがあります。また、古文や漢詩では「憂愁」「哀悼」「愁眉」など、哀しみの感情が文化や死生観とも結びついて描かれます。
- 哀し(あはれし)
心が痛み、しみじみとした感情に包まれる様子。古語において「哀れ」と通じ、広く人情に訴える感情を含む。 - 悲し(かなし)
大切なものを失ったときのような深い心の痛みを表す言葉。『源氏物語』などの古典にも頻出する感情表現。 - 嘆く(なげく)
悲しみや不遇を声や言葉にして訴えること。感情が抑えきれず外にあふれる様子。 - 哀惜(あいせき)
人や物、過ぎ去った時への惜しむ気持ち。哀しさと名残惜しさが入り混じる表現。 - 哀悼(あいとう)
故人への深い哀しみと悼む気持ち。礼儀や儀式の場でも用いられる丁重な語。 - 憂う(うれう)
将来や現状への心配・不安に対する感情とともに、哀しみも含む語。文語・古語的表現。 - 愁い(うれい)
心に重くのしかかるような悲しみや憂い。美的な響きを持つ感情語で、和歌にも多く用いられる。 - 愁眉(しゅうび)
眉をひそめて悲しみに沈む表情を表す熟語。感情が表情に現れた美しい描写語。 - 悲痛(ひつう)
非常に深く強い悲しみ。心が引き裂かれるような感情を表す。 - 哀愁(あいしゅう)
どこか懐かしさや物悲しさを感じさせる情緒。音楽や風景にも使われる、美的な感傷の語。 - 涙する(なみだする)
悲しみや感動によって自然と涙がこぼれる様子。漢文・文語調の表現。 - 物思う(ものおもう)
哀しみや悩み、恋しさなど、心を占める深い思索の感情。古典和歌で多用される。 - 哀憐(あいれん)
他者の不幸や哀しみに寄り添い、深く憐れむ気持ち。慈悲にも通じる高尚な感情。 - 傷心(しょうしん)
心が傷つき、悲しみに沈んでいる状態。静かな内面的苦しみを強調する表現。 - 断腸(だんちょう)
腸(はらわた)がちぎれるほどの哀しみ。親しい者との別れに用いられる非常に強い悲しみの比喩。 - 悲哀(ひあい)
深くしみじみとした哀しみ。人生の切なさや無常感を含んだ、重厚で文学的な語。 - 哀傷(あいしょう)
人の死などに対する深い悲しみ。儀礼・仏教的な場面で用いられることも多い。 - 落涙(らくるい)
涙をこぼすこと。特に静かに涙を流す、抑えた哀しみの描写に使われる漢語。 - すすり泣く(すすりなく)
声を抑えながら泣くこと。深い哀しみや心の痛みが長く続いている様子を表す。 - 寂寥(せきりょう)
人や物の気配がなく、心がぽっかりと空いたような哀しみ。特に孤独感や虚しさを含む語。 - 虚しい(むなしい)
何かを失ったり、意味が見いだせなかったりしたときに感じる、内面的な哀しみや喪失感。 - 切ない(せつない)
感情が胸に迫って苦しいような哀しさ。恋や別れ、過去への未練などを含んだ語。 - 哀感(あいかん)
哀しみの情趣・雰囲気。文学や芸術作品などの感情的なトーンを表現する際に用いられる。 - 侘し(わびし)
寂しさや物足りなさに、やるせなさや心細さが加わった感情。古語的で美的な響きを持つ。 - 寂し(さびし)
人恋しさや孤独感を伴う哀しみ。和歌や随筆にも頻繁に登場する日本的情感の表現。 - 憂愁(ゆうしゅう)
憂いと愁いを合わせた、深い悲しみの語。 - 哀哭(あいこく)
声を上げて泣き悲しむこと。 - 慟哭(どうこく)
胸を打ち砕かれるように泣くさま。
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