土蜘蛛(つちぐも)
伝承・由来:
古代の豪族・土蜘蛛族が妖怪化したという説、地中や山中に棲む大蜘蛛妖怪の伝承などが交錯する。
多くの説話で、山岳地帯や岩の合間、土の中から現れる怪物として登場する。
特徴・言い伝え:
- 巨大な蜘蛛の姿、糸や巣を使って絡めとる。
- 山の中で遭難者を誘い込み、巣の中に閉じ込める話など。
- また、戦記物語(平安記など)において土蜘蛛退治の話もあり、武勇伝として語られることもある。
恐ろしさの本質:
“閉じ込められる”恐怖、網目に絡まる/動けなくなる感じ。
地中・闇の中から突然現れるという、不意打ち性・地下性が強い。
夜行さん(やぎょうさん)
伝承・由来:
「夜行(やぎょう)」とは、夜に行動する妖怪・怪異を指す語。 “夜行さん”と呼ぶ地方もあるらしい。
夜道で襲う怪異、夜に徘徊する亡霊や妖怪の総称的な存在。
特徴・言い伝え:
- 夜中に道ばたに現れる、行く手を遮る、つきまとうなど。
- 足音、呼び声、影の気配で現れるものが多い。
- 見た者は心臓が止まりそうになる、逃げられなくなる、という怪談風の演出が多い。
恐ろしさの本質:
“夜”という無防備な時間帯、視界の効かぬ闇、その間を縫って忍び寄るものの存在感。
また、はっきり見えないゆえの不確定性や錯覚の地平が恐怖を増幅する。
大入道(だいにゅうどう)
伝承・由来:
“入道”という語は、僧の姿をした妖怪・怪異を指すことが多い。その「大」なる存在、という意味合いで特に巨大化・強化されたものを指す例。
また、「大入道」は妖怪絵巻などで大きな影のような入道型の化物として描かれることがある。
特徴・言い伝え:
- 巨大な僧形あるいは僧形を模した影のような姿。
- 夜空に浮かぶように出現する、山道や峠に現れる、などの伝承あり。
- 迫る気配だけで威圧するような妖怪として語られる。
恐ろしさ的核:
“形の大きさ”と“異形の僧侶性”というずれが不気味さを醸す。
また、影/闇の拡張的性質を持たせやすく、“闇そのものの妖怪”という演出も可能。
山姥(やまんば)
伝承・由来:
山に棲む老女の妖怪。山守、山の怪異、山で迷った者を襲うものとして広く伝えられる。
女性性・老年性と自然の装飾とが結びついた妖怪である。
特徴・言い伝え:
- 山道で出会った旅人を導くふりをして、谷へ落とす、食い殺す、消し去るなどの話がある。
- ある地域では老婆が食物を乞うて近づき、家に現れて人を喰うという話もある。
- 人を化かす能力、変幻自在な姿をとるという伝承も。
恐ろしさの本質:
山という“境界の地”、日常から離れた場所で出会う異物。
「助けてくれるかと思えば襲う」裏切り性、騙し性が強い。
橋姫(はしひめ)
伝承・由来:
橋の近くに現れ、通行者を誘い込む女の妖怪・鬼女として伝わる。特に橋と人との“縁”を絡めた縁起・因縁性を持つ妖怪。
橋姫伝説は日本各地にある。
特徴・言い伝え:
- 橋の袂で立ち止まり、通る者に声をかける。
- 通行者を引き込み、川に落とす・吊り下げる・妹になりすます・化けて襲うなど、さまざまなバリエーションあり。
- 時に、かつて橋で死んだ女性の霊が化した、あるいは怨念を持って現れるという話も。
恐ろしさの本質:
“橋”という渡る場、境界性、揺らぎ場所。
また、誘惑性・裏切り性を帯び、「進むか戻るか迷う場所」で出会う妖怪という構図が怖さを強める。
沼御前(ぬまごぜん)
伝承・由来:
主に東国・関東地方の伝承に見られる、沼や湿地と結びついた女妖怪。水辺の怪異として語られる。
特徴・言い伝え:
- 滅多に人前に姿を現さないが、夜の沼に舟を漕ぐ者を溺れさせる、引きずり込むなどの話。
- 美しい女の姿をとり、誘うことがある。
- また、沼の平穏を乱す者を罰するような性質を持つ話もある。
恐ろしさの本質:
水の深み・見えない底への恐怖。
水面下に潜む命の危険性。
さらには“誘い込む”という性質を通じての罠性を持つ。
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