水は、形をとどめないまま、場所や時間によって姿を変えてきました。
川の流れ、泉の澄み、波の音、水面に映る影。
日本語には、そうした一瞬の水のあり方を、丁寧に言い分けてきた古語が残されています。
ここに並ぶのは、水そのものや水辺の地形、流れの動き、静まり返った水面までを含んだ言葉です。
どれも、自然の中で水を見つめ、感じ取ってきた感覚が、そのまま言葉になったものばかり。
意味を知ることで、水の情景はより立体的に立ち上がります。
日々の読書や創作、言葉を味わう時間の中で、日本語が持つ水の表現に触れてみてください。
水にまつわる美しい古語一覧
1. 水そのもの・水域|自然として存在する水の姿
川や海、泉や湿地など、水そのものが形をとって現れる場所を表す古語を集めました。 人の手を離れた自然の水景が、そのまま言葉として残されています。
- 水(みづ)
川や泉、雨として存在する自然の水。生命や循環の源として、古典では極めて基本的な存在。 - 淡海(あはうみ)
塩分を含まない大きな水域。湖を指し、静かで穏やかな水面の広がりを感じさせる語。 - 水無し川(みなしがは)
川床には水が見えず、地下を流れている川。表に現れない水の存在を含んだ呼び名。 - 泉(いづみ)
地中から自然に湧き出る水。清らかさや尽きぬ命の象徴としても扱われる。 - 湧水(わきみづ)
地下から湧き出たばかりの水。新しさと澄んだ冷たさを感じさせる。 - 源(みなもと)
川や水流が生まれる起点。水の始まりを示す語で、流れの原点を意識させる。 - 入江(いりえ)
陸地に深く入り込んだ水域。波が穏やかで、静かな水のたまりを思わせる。 - 潟(かた)
水深が浅く、水が広がる場所。干潮時には地面が現れることもある。 - 潟湖(せきこ)
砂州などで外海と隔てられた浅い湖。海と陸の境に生まれた静かな水域。 - 洲(す)
川や海の中にできた砂地や小さな陸地。水の流れが形づくる地形。 - 淵(ふち)
水が深くたまる場所。静まり返った水の重みと奥行きを感じさせる。 - 瀬(せ)
川の流れが速く、水が浅くなる部分。音や動きが際立つ水の表情。 - 渚(なぎさ)
水と陸とが接する場所。波が寄せては返す境界の景色。 - 湊(みなと)
川や海の水が出入りする所。水路として開かれた要所を示す語。 - 潮(しほ)
海の水の満ち引き。時間とともに変化する水の動きを含んだ言葉。 - 海原(うなはら)
見渡すかぎり広がる海の水面。果てのない水の広がりを表す。 - 沢(さは)
山あいを流れる水のある場所。湿り気と清流の気配を帯びる語。 - 天水(てんすい)
空と水をひと続きに捉えた呼び名。雨水として降り、地を潤してめぐっていく“天からの水”を含む語。 - もしほ(藻塩)(もしほ)
海藻に海水を含ませて塩を採る営みから生まれた語で、塩づくりに用いる海水そのものも指す。潮の匂いを帯びた水の名。 - 岩井(いはゐ)
岩の間から湧く水を得るための井戸。地下の清水が地表へ現れる地点としての“井”を含む語。 - 石井(いはゐ)
岩間から湧く水を利用した井戸。硬い岩と清水の組み合わせが、冷たさと清らかさを印象づける。
コメント