人を想い、惹かれ、迷い、そして別れる。
恋という感情は、時代が変わっても人の心の奥に静かに息づいてきました。
日本の古典には、恋の始まりの微かな気配から、忍ぶ想い、逢瀬の夜、そして終焉の余情までを、驚くほど繊細に言い分ける言葉が残されています。
ここに並ぶ古語は、一つひとつが、和歌や物語の中で実際に使われ、人の心の揺れや覚悟を映してきた表現です。
現代語では捉えきれない恋の感触を、静かな言葉で確かめたいとき、この一覧が手がかりになります。
1. 恋の発生・芽生え・引き寄せ
- 恋|こひ
人を強く思い慕う気持ち。古典では苦しみを伴う感情。 - 思ひ初む|おもひそむ
恋心を抱き始める。 - 覚ゆ|おぼゆ
自然にそう思われる。恋心が芽生えるさま。 - 懐かし|なつかし
心が引き寄せられ、親しみを覚える。 - 憧る|あくがる
心が相手に引き寄せられ、魂が離れるように感じる。 - 仄めく|ほのめく
それとなく恋心を示す。 - 思ひ立つ|おもひたつ
恋の決意が心に立ち上がる。 - 心寄す|こころよす
心を相手に寄せる。恋の始まりを静かに表す語。 - 思ひ染む|おもひそむ
心が次第に恋に染まっていくこと。
2. 想い続ける・恋慕の深化
- 恋し|こひし
会いたくてたまらない気持ち。 - 恋しう|こいしう
形容詞的に「恋しい」気持ちを強調する形。 - 恋ひ渡る|こひわたる
恋心が途切れず続くこと。 - 恋ひ暮らす|こひくらす
恋に心を奪われ、日々を過ごすこと。 - 恋ふ|こふ
恋い慕う。恋する動詞の基本語。 - 慕ふ|したふ
相手を慕い追い求める。恋情が深いさま。 - 慕ひ寄る|したひよる
慕い寄って近づく。恋情が強く行動に出るさま。 - 思ふ|おもふ
心を向ける。恋愛感情として用いられることが多い。 - 想ふ|おもふ
恋情や思いを深く心にかけること。恋の感情を広く表現する語。 - 思ひ|おもひ
心に抱く恋の念。 - 思ほゆ|おもほゆ
心に自然と浮かんで恋しく思う。 - 思ひ遣る|おもひやる
遠くにいる相手を思い慕う。 - 焦がる|こがる
恋しさ・思い焦がれる強い恋情。 - 愛し|いとし
深く愛おしく思う。 - 愛ほし|いとほし
愛おしく、守ってやりたい気持ち。 - 愛づ|めづ
心を惹かれ、大切に思う。 - 夜ごと|よひごと
夜ごとに募る恋心。 - 思ほし召す|おもほしめす
相手を思い慕う(敬語的用法)。 - 恋路|こひぢ
恋へと至る道。恋の行方や運命を含意する語。 - 恋ひ焦がる|こひこがる
強く恋い慕い、身を焦がすほど思う。 - 恋ひ慕ふ|こひしたふ
恋心をもって慕う。 - 思ひ積む|おもひつむ
思いが重なり、深まっていくこと。
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