3. 大地・山・火山・鉱山の女神(8柱)
山岳信仰・火山・岩石・鉱山など、大地のダイナミックなエネルギーをつかさどる女神たち。火山の噴火を鎮め、山の恵みや鉱物資源を与え、岩のように揺るがない基盤を与えてくれる神格として信仰されてきました。
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白山比咩神(しらやまひめのかみ)
日本三名山のひとつ・白山をご神体とする白山信仰の主祭神。『日本書紀』に登場する菊理媛神(くくりひめ)と同一視され、白山比咩大神として全国三千社あまりの白山神社に祀られます。山岳の霊力だけでなく、「縁をくくる」女神として縁結び・夫婦円満・家内安全のご利益で崇敬されています。
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浅間大神(あさまのおおかみ)
富士山本宮浅間大社をはじめとする全国の浅間神社に祀られる火山の女神。主祭神は木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやびめ)で、その別名・神格として浅間大神と称されます。噴火する山の猛りを鎮めつつ、豊かな湧水や山の恵みをもたらす存在として信仰され、火難除け・安産・子授け・航行安全など幅広いご利益が語られています。
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石長比売(いわながひめ)
山の神・大山津見神の娘で、木花之佐久夜毘売の姉にあたる岩石の女神。邇々芸命に妹だけが選ばれたため、「天つ神の御子の命は岩のような永遠性を失い、木の花のように儚くなった」と語られます。岩の不変性を体現することから、健康長寿・不動の基盤を象徴する神としても信仰されます。
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磐長媛命(いわながひめのみこと)
石長比売の別名・表記形とされる女神で、「磐(いわ)」の字が示すとおり、動じない岩盤の力を表す神格です。各地の神社では、山の磐座や巨岩と結びつけて祀られることが多く、「寿命を延ばし、厄災に揺らがない心身を守る女神」として長寿祈願・厄除けの信仰を集めています。
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埴山姫(はにやまひめ)
イザナミが火の神を産んで死の床に伏したとき、生み出された「土」の女神。粘土・土壌・陶器を司り、『古事記』『日本書紀』ではハニヤスビメ/ハニヤマヒメなどの名でも登場します。農耕の大地、陶芸や土木・造園の基盤となる土の力を象徴し、五穀豊穣・産業の繁栄・鎮火・土地の安定を願う神として祀られています。
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金山姫神(かなやまひめのかみ)
金山彦神と対になる鉱山・金属の女神。イザナミの死にまつわる神話の中で、火による嘔吐から生まれた神々の一柱とされ、冶金や鉄器製作、鉱山そのものの霊力を体現します。鍬や刀剣、道具づくりの守護神として、採掘・製鉄・金属加工に関わる人々の信仰が厚く、産業安全・火難除け・仕事運向上などのご利益と結びつけられています。
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刺国若比売(さしくにわかひめ)
刺国大神の娘で、天之冬衣神(あめのふゆきぬ)の妃となり、大国主神の母となった女神。名前の「刺国」は境界を“刺して”領有する意、「若」は親神の「大」に対する娘を表すとされ、国土を占有・守護する巫女的性格をもつと解釈されています。大国主神を幾度も蘇らせた母神として、国土の再生力・土地の守護・子どもの無事成長を願う信仰と結びつけられています。
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石折比売(いわおりひめ)
史料上の神名としては確認できませんが、近縁の神として「石巣比売神(いはすひめのかみ)」が挙げられます。石巣比売神はイザナギ・イザナミの神生みによって生まれた女神で、岩や砂・住まいの「巣」を表す名を持ち、岩盤や土砂・住居の基礎を神格化した存在と解釈されています。創作や信仰の文脈では、石折比売の名を「岩を割り、道や住まいの基盤をひらく女神」として用い、大地の安定・家の繁栄・土木安全を祈る象徴として位置づけることができます。
4. 季節・草木・花の女神(8柱)
春の芽吹き、夏の緑、秋の紅葉、冬の静けさ──大地のめぐりとともに移ろう季節、そしてそこに息づく草木や花々。これら自然の営みを象徴し、守り、彩る女神たちです。生命のめぐり、季節の移ろいを大切にする人にとって、親しみ深く、励ましとなる存在たちです。
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木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)
日本神話において、桜や花の美しさ、春の訪れを象徴する女神として知られます。富士山や火山信仰と深く結びつき、火の御巫(みこ)から生まれた清らかな木花の精とされます。
その華やかな“咲く”性質から、花の開花・豊穣・新たな始まり・繁栄の象徴とされ、縁起・安産・子授け・家の繁栄など、生命の芽吹きを願う人々に広く崇敬されています。
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石長比売(いわながひめ)
木花之佐久夜毘売の姉にあたる岩石の女神で、桜のように花が咲き誇る自然の儚さだけでなく、「岩のような永続性」「大地の不動性」「長寿・安定・基盤」を象徴する神格です。
そのため、花の繁栄と同時に、土地・家・家系・命の安定を願うときに参拝されることが多く、季節の移ろいの中でも変わらぬ守りを期待できる女神です。
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久久能智神(くくのちのかみ/句々廼馳)
『古事記』『日本書紀』の神産みにおいて、最初期に生まれた「木の神」。木々の幹や草木の茎の成長、森や林の生命力、そして木々・森の生成と再生を司る神です。
木や森、林業、原野の再生、土地の緑化、植林・林業に携わる人々から信仰され、自然の循環・森林の安定・緑の豊かさを願うときに参拝されます。生命力あふれる新緑や草木の芽吹きの象徴といえる存在です。
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鹿屋野比売(かやのひめ)
『古事記』『日本書紀』の「野の神」のひと柱として、草原や野原、野山の草木を司る神。木々だけでなく野の草、広がる緑や野の自然を守る女神です。
季節ごとの草花の芽吹き、野山の緑の再生、山野や野原の豊かさ、そして自然との共生や平穏な暮らしを願う人々にとって、身近な自然を守る神として親しまれています。
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竜田姫(たつたひめ)
伝承や風土記の中で、秋の紅葉や紅葉の名所と結びつく女神として語られることがあると、一部の民俗資料や地域伝承に見られます。ただし、主要な神話書には明確な記載が少なく、地域ごとの言い伝えや後世の伝承に依る部分が大きいため、「竜田姫=紅葉の女神」という扱いにはばらつきがあります。
そのため、彼女のご利益は「秋の紅葉の美しさを楽しむ自然との調和」「季節の移ろいへの感謝と畏敬」など、やや象徴的・風土的な意味合いとされ、四季の移ろいを意識する人々にとっての“自然との対話”の象徴と捉えるのが現実的です。
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木花知流比売(このはなちるひめ)
「木花之佐久夜毘売(咲く=花の開花)」に対して、「散る」「枯れる」「移ろい」を象徴するとされる女神とする説があります。花の盛りから終わり、季節の終わりゆく趣、命の循環や無常観を表す神格です。
桜の花が咲き、そして散るように、すべての命もまた移ろう――その儚さと、一方で次に続く新たな芽吹きを受け止める存在として、自然の営みと人の営みの循環を見守る女神とされます。
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佐保姫(さほひめ)
古くから春を告げる女神、または春の訪れと草木の芽吹きを象徴する存在として、地域伝承や和歌、古典において「春の擬人化」「春の女神」として語られることがあります。
冬の終わり、春の目覚め、新しいはじまり、自然の再生。季節のめぐり、人の生活のリズムを祝福し、春の訪れとともに生気を与えてくれる女神として、豊かな未来や再スタートを願う人々に親しまれます。
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