7. 日常生活に息づく古語―昔の暮らしを知る言葉たち
「かたらふ」「やむごとなし」「かしづく」など、当時の生活に根ざした古語は、社会の仕組みや人々の暮らしぶりを映し出しています。食事、衣服、家族、仕事など、日常の場面に密着した古語を知ることで、古典作品の具体的なイメージがより鮮明になり、物語世界に入り込みやすくなります。
- かたらふ(語らふ)
語り合う、親しく付き合う。日常の会話や交際の様子を表す語。 - かしづく
大切に世話をする、丁寧に育てる。親や主君への仕え方や子育てにも使われる。 - あそぶ(遊ぶ)
古語では音楽を奏でる・詩歌を楽しむなど、芸術的な娯楽の意味が中心。 - まうく(設く)
準備する、用意する、蓄えるという生活感ある動詞。 - たまはる(賜はる)
いただく(謙譲語)。物をもらう行為に丁寧さと感謝が込められた表現。 - はべり(侍り)
お仕えする、あります(丁寧語)。身分制度と日常の礼儀が反映された言葉。 - いらふ(答ふ)
返事をする、応じる。人とのやりとりの基本である「こたえる」の古い形。 - つかまつる(仕うまつる)
お仕え申し上げる。目上の人に何かをする際の敬語表現。 - おこなふ(行ふ)
日常の行動をする、または修行や勤行(仏教的意味)にも使われた語。 - とぶらふ(訪ふ・弔ふ)
訪問する、見舞う、または亡き人を弔う。人を思いやる日常の行動として幅広く使われる。
8. 神と自然への祈りを感じる古語―宗教・信仰・神秘のことば
古代日本では、自然や神仏に対する畏敬の念が日常に息づいており、それを表す古語も数多く存在します。「たまゆら」「かしこし」「たまはる」などは、神秘的な雰囲気を持ち、儀式や祈り、神話の世界とも結びついています。神仏と人との距離感や、自然観を読み解く手がかりとなる言葉です。
- かしこし(畏し)
恐れ多い、神聖で近づきがたいという意味。神仏や高貴な存在への畏敬を表す。 - たまはる(賜はる)
神や目上の人からの恵みを「いただく」意を持つ謙譲語。神からの授かり物としても使われる。 - たまゆら(玉響)
玉が触れ合うわずかな音、またはほんのしばらくの時間。神秘的な時間感覚を表す語。 - よろづ(万)
あらゆるもの、すべてのもの。神代の言葉としても用いられ、万物への感謝や祈りの文脈で登場する。 - あまつかみ(天津神)
高天原に住む神々。自然現象や天体と結びついた神聖な存在を表す語。 - あしひきの
山にかかる枕詞。「山」の神聖性と、日本人の自然観の表れとして頻出。 - しづしづ
静かに、穏やかにという意味。神事や祈りの場面での動作や空気感を表す語。 - うらみる(占みる)
神託を受ける、未来を占うという意味。神との対話や祈願の文化に関わる語。 - たふとし(尊し・貴し)
尊くありがたい存在を表す語。神仏や亡き人に対する敬意とつながる。 - いはふ(斎ふ・祝ふ)
清める、神聖な状態を保つ。または祝い祀る意味でも使われる宗教的な語。
9. 幻想や夢を語る古語―物語に広がる想像の世界
夢、幻、霊、死後の世界など、現実と非現実のあわいを描くために使われた古語には、独特の美しさと奥深さがあります。「うつし世」「まぼろし」「ゆめのうつつ」など、幻想的な響きを持つ言葉は、古典文学の中で非現実の世界を描く際に重要な役割を果たしてきました。日本人の死生観や信仰観とも深く関係しています。
- うつし世(現し世)
現実の世界を指し、夢やあの世と対比される語。物語の中で現実感を強調する際に用いられる。 - ゆめ(夢)
眠りの間に見る幻覚や幻想。現実と区別して、物語の不思議な展開を示す。 - まぼろし(幻)
目に見えないもの、儚く消えゆくもののたとえ。非現実的な情景や心象描写に多用される。 - うつつ(現)
意識がはっきりしている状態、現実を意味する語。夢とのコントラストを際立たせる。 - もののけ(物の怪)
霊や幽霊、妖怪などの超自然的な存在を指す。人の心の奥に潜む恐怖や哀しみにも結びつく。 - かげろひ(陽炎)
暑さで立ち昇る揺らぎ。幻想的・儚い風景描写として詠まれることが多い。 - あやし
不思議でありがたみがあるさま。怪異や異界の気配を感じさせる言葉。 - まどひ(惑ひ)
心が乱れて迷うこと。現実と幻の境界が曖昧になる様子を表す。 - あくがれ(憧れ/漂れ)
魂が体を離れてさまようこと。死者の魂の彷徨や、心が非現実へと引き寄せられる感覚。 - おぼろげ(朧げ)
薄ぼんやりとしてはっきりしない様子。夜の夢うつつや、朧月夜の景色を思わせる語。
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